奥多摩の廃村に咲いた絶滅危惧の花B2Nature & AdventureListen to the whole story5 キーワード重要な語彙九きゅう月がつの末すえ、植物学しょくぶつがく者しゃの三さん上梓じょうしはスマートフォンの画面がめんを何度なんども見直しみなおした。送り主おくりぬしは「山やまの友人ゆうじん」と名乗っなのっただけで、それ以上いじょうの連絡れんらくはない。写真しゃしんは粒つぶが粗くあらく、ピントも甘かっあまかったが、それでも梓しの目めは一いち点てんに釘付けくぎづけになった。白いしろい花びらはなびらに細かいこまかい切れ込みきれこみが入りはいり、中心ちゅうしんから薄紫うすむらさきの筋すじが走っはしっている。カワラノギクだ。絶滅ぜつめつ危惧きぐⅠA類るい。東京都とうきょうとの多摩たま川かわ流域りゅういきで自生じせいが確認かくにんされたのは、二十にじゅう年ねん以上いじょうも前まえのことである。写真しゃしんの背景はいけいには、苔むしこけむした石垣いしがきと崩れくずれかけた木きの柱はしらが写っうつっていた。「奥多摩おくたま・入いり山沢やまざわ」とだけ添えそえられたキャプションに、梓しは翌朝よくあさ、始発しはつのホリデー快速かいそくで応えこたえた。段落を翻訳奥多摩駅おくたまえきを降りるおりると、空気くうきがすぐに変わっかわった。東京都内とうきょうとないだというのに、ここには都市としの喧騒けんそうがまったくない。杉すぎの林はやしが山やまの斜面しゃめんをびっしりと覆いおおい、その隙間すきまから沢さわの音おとが細くほそく聞こえきこえてくる。梓しはバスを乗り継ぎのりつぎ、さらに舗装ほそうの途切れとぎれた林道りんどうを一いち時間じかん歩いあるいた。入いり山沢やまざわ集落しゅうらく跡あとへの道みちは、地図ちず上じょうでは破線はせんになっていた。実際じっさいに歩いあるいてみると、それは「道どう」というより「かつて道みちだった場所ばしょ」だった。ススキが胸むねの高さたかさまで伸びのび、朽ちくちた丸太まるたが横たわりよこたわり、足元あしもとには黒いくろい腐葉土ふようどが柔らかくやわらかく沈むしずむ。もし誰だれかに見つかっみつかったとしたら、確かたしかに隠れかくれ場所ばしょとしては最適さいてきだ。梓しは独りごちひとりごちた。花はなについてではなく、この場所ばしょ全体ぜんたいのことを言っいっているのだと、自分じぶんでもすぐに気づいきづいた。段落を翻訳集落しゅうらくの跡あとに入っはいったのは、正午しょうご過ぎすぎだった。石垣いしがきが段々だんだんに重なりかさなり、かつては棚田たなだだったらしい平地へいちが続くつづく。家屋かおくの土台どだいだけが残りのこり、そこに木きが根ねを張っはっていた。梓しは写真しゃしんと見比べみくらべながら、崩れくずれた納屋なやの残骸ざんがいを回り込んまわりこんだ。そして、見みた。石垣いしがきの割れ目われめから、花はなが一いち株かぶだけ伸びのびていた。茎くきは細くほそく、白いしろい花びらはなびらが外向きそとむきに開いひらいている。中心ちゅうしんの薄紫うすむらさきは、写真しゃしんより鮮やかあざやかだった。踏まふまれた形跡けいせきはなく、虫食いむしくいもない。ただ静かしずかに、そこにあった。梓しはしゃがみ込んしゃがみこんで、ルーペを取り出しとりだした。葉はの形かたち、茎くきの毛けの密度みつど、花びらはなびらの切れ込みきれこみの角度かくど。すべてが一致いっちする。間違いまちがいない。段落を翻訳カメラのシャッターを押すおす前まえに、梓しは少しすこし迷っまよった。この花はなの存在そんざいを報告ほうこくすれば、当然とうぜんながら確認かくにん調査ちょうさが入るはいるだろう。研究者けんきゅうしゃが何人なんにんも来きて、周辺しゅうへんが踏み荒らさふみあらされるかもしれない。その前まえに情報じょうほうが漏れれもれれば、採集さいしゅうマニアが動くうごく可能性かのうせいもある。絶滅ぜつめつ危惧きぐ種しゅの自生じせい地ちが公開こうかいされた途端とたんに消えきえてしまった事例じれいを、梓しはいくつも知っしっていた。かといって、黙っだまっているのも違うちがう。研究者けんきゅうしゃとしての梓あずさには、記録きろくする義務ぎむがある。そして適切てきせつな保護ほご措置そちをとるためには、公的機関こうてききかんの力ちからが必要ひつようだ。結局けっきょく、梓しは三さん枚まいだけ撮っとった。場所ばしょが特定とくていできるランドマークは意図的いとてきに外しはずし、花はなと、葉はと、株元かぶもとだけを記録きろくした。GPSのデータは、一定いっていの誤差ごさをもたせた数値すうちに書き換えかきかえた。信頼しんらいできる同僚どうりょうに、まず一人ひとりだけ連絡れんらくする。それだけでいい。段落を翻訳帰り道かえりみち、梓しは来きた道みちを引き返しひきかえしながら、自分じぶんがしたことの意味いみを考えかんがえ続けつづけた。正しかっただしかったのか、という問いといに、まだ答えこたえは出でていない。でも、あの花はなが今日きょうもそこに咲いさいているという事実じじつは変わらかわらない。二十にじゅう年ねん以上いじょう、誰だれにも見つからみつからずに。それ自体じたいが、一ひとつの証明しょうめいだと思っおもった。人間にんげんの目めが届かとどかないところで、何なんかが生きいき続けつづけている。奥多摩おくたまの杉林すぎばやしは、帰りかえりの道みちでも変わらかわらず静かしずかだった。沢さわの音おとだけが、ずっと梓あずさの後ろうしろをついてきた。段落を翻訳初心者向けストーリーレベル別リーダー短編ストーリーNature & Adventure storiesアプリには200以上の Japanese 物語があります。読み続けてください。アプリで続ける無料でお試しいただけます · iOS & Android理解度チェックComprehension Questions0 of 3 回答済み1What prompted Mikami to go to the village of Iriyamazawa?CA government-issued document about conservation.BA personal request from her university professor.AAn anonymous message about a rare flower.2What was the condition of the path to the village?CIt was a busy tourist trail with many hikers.BIt was overgrown and full of obstacles like logs.AIt was well-maintained and clearly marked on maps.3Why did Mikami manipulate the data before reporting the flower's location?CShe feared that public knowledge would lead to the flower being destroyed or stolen.BShe was not sure if it was truly the plant she thought it was.AShe wanted to claim the discovery for herself.次に進む前に理解度を確認してください。Reset解答を確認