De heshiko uit Wakasa die door twee huizen onder dezelfde naam wordt verkocht
A2 · Food & Cuisine
若狭[わかさ]の小さな[ちいさな]港町[みなとまち]に、「海[うみ]の月[つき]」という店[みせ]が二[ふた]つあった。道[みち]の右側[みぎがわ]には山本[やまもと]家[か]の店[みせ]、左側[ひだりがわ]には中村[なかむら]家[か]の店[みせ]があった。どちらも、さばのへしこを売っ[うっ]ていた。
へしこは、さばに塩[しお]をつけ、米ぬか[こめぬか]の中[なか]で長い[ながい]時間[じかん]ねかせる食べ物[たべもの]だ。においは強い[つよい]が、ご飯[ごはん]といっしょに食べる[たべる]とおいしい。
ある朝[あさ]、山本[やまもと]家[か]の娘[むすめ]、美咲[みさき]はホテルからのメールを読ん[よん]だ。
「『海[うみ]の月[つき]』のへしこを五十[ごじゅう]本[ぽん]、半年[はんとし]後[ご]の日曜日[にちようび]までにお願い[ねがい]します」 ホテルからの大きな[おおきな]注文[ちゅうもん]だった。でも、住所[じゅうしょ]が書い[かい]ていなかった。
「これは、うちへの注文[ちゅうもん]だ」と美咲[みさき]の父[ちち]が言っ[いっ]た。 その時[とき]、中村[なかむら]家[か]の店主[てんしゅ]も店[みせ]から出[で]てきた。 「いいえ、うちです。ホテルの人[ひと]は先週[せんしゅう]、うちへ来[き]ました」
二[ふた]つの家[いえ]は、昔[むかし]から仲[なか]が悪かっ[わるかっ]た。同じ[おなじ]名前[なまえ]で、よく似[に]たへしこを売っ[うっ]ていたからだ。
ホテルに電話[でんわ]すると、料理長[りょうりちょう]は言っ[いっ]た。 「子ども[こども]のころに食べ[たべ]た、少し[すこし]甘い[あまい]『海[うみ]の月[つき]』の味[あじ]がほしいのです。でも、どちらの店[みせ]か分かり[わかり]ません」
美咲[みさき]は二[ふた]つの店[みせ]のへしこを少し[すこし]ずつ食べ[たべ]た。山本[やまもと]家[か]は塩[しお]が強く[つよく]、中村[なかむら]家[か]は少し[すこし]甘かっ[あまかっ]た。でも、どちらも料理長[りょうりちょう]が覚え[おぼえ]ている味[あじ]と少し[すこし]違っ[ちがっ]た。
その夜[よる]、美咲[みさき]は祖母[そぼ]の古い[ふるい]料理[りょうり]ノートを見つけ[みつけ]た。そこには、こう書い[かい]てあった。 「『海[うみ]の月[つき]』のへしこは、山本[やまもと]春江[はるえ]と中村[なかむら]雪[ゆき]が一緒[いっしょ]に作っ[つくっ]た。酒[さけ]と少し[すこし]の砂糖[さとう]を使う[つかう]」
「山本[やまもと]春江[はるえ]は、おばあちゃん?」 美咲[みさき]が聞く[きく]と、祖母[そぼ]はうなずいた。 「そうよ。昔[むかし]、雪[ゆき]さんと私[わたくし]は親友[しんゆう]だった。でも、店[みせ]を始める[はじめる]時[とき]にけんかをした。それから、同じ[おなじ]名前[なまえ]で別々[べつべつ]に売っ[うっ]たの」
次[つぎ]の朝[あさ]、美咲[みさき]はノートを持っ[もっ]て中村[なかむら]家[か]へ行っ[いっ]た。 「五十[ごじゅう]本[ぽん]を、二[ふた]つの家[いえ]で一緒[いっしょ]に作り[つくり]ませんか。昔[むかし]の味[あじ]を、お客さん[おきゃくさん]に届け[とどけ]ましょう」
美咲[みさき]の父[ちち]と店主[てんしゅ]は、しばらく黙っ[だまっ]た。やがて、店主[てんしゅ]が笑っ[わらっ]た。 「半分[はんぶん]ずつなら、けんかも半分[はんぶん]だな」
半年[はんとし]後[ご]の日曜日[にちようび]、二[ふた]つの家[いえ]は、ノートにある昔[むかし]の作り方[つくりかた]でへしこを作り[つくり]、ホテルへ届け[とどけ]た。料理長[りょうりちょう]は一口[ひとくち]食べ[たべ]、笑っ[わらっ]て言っ[いっ]た。 「この味[あじ]です。子ども[こども]のころに食べ[たべ]た味[あじ]です」
その日[ひ]から、二[ふた]つの店[みせ]の間[あいだ]に小さな[ちいさな]テーブルを置い[おい]た。二[ふた]つの「海[うみ]の月[つき]」は、少し[すこし]ずつ一緒[いっしょ]に働く[はたらく]ようになった。