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毎朝誰かが直す傾いた自転車

毎朝[まいあさ]、田中[たなか]けいこは不思議[ふしぎ]なことに気づき[きづき]ました。アパートの前[まえ]に止め[とめ]た自転車[じてんしゃ]が、いつも少し[すこし]傾い[かたむい]ているのです。「あれ?また傾い[かたむい]てる。」

けいこは毎晩[まいばん]、自転車[じてんしゃ]をきれいに止め[とめ]て家[いえ]に入り[はいり]ます。でも、次[つぎ]の朝[あさ]に見る[みる]と、いつも少し[すこし]傾い[かたむい]ていました。風[かぜ]のせいかな、とけいこは思い[おもい]ました。

でも、もっと不思議[ふしぎ]なことがありました。仕事[しごと]から帰る[かえる]と、自転車[じてんしゃ]はいつもまっすぐに直っ[なおっ]ていました。誰[だれ]かが直し[なおし]てくれていたのです。「誰[だれ]が直し[なおし]てくれるんだろう?」

けいこはとても気[き]になりました。一[いち]週間[しゅうかん]、同じ[おなじ]ことが続き[つづき]ました。朝[あさ]に傾く[かたむく]自転車[じてんしゃ]。夜[よる]には直っ[なおっ]ている自転車[じてんしゃ]。ある日[ひ]、けいこは決め[きめ]ました。「早起き[はやおき]して、確かめよう[たしかめよう]。」

次[つぎ]の朝[あさ]、けいこは六[ろく]時[じ]に起き[おき]ました。静か[しずか]にカーテンの後ろ[うしろ]に立っ[たっ]て、外[そと]を見[み]ました。

しばらくすると、隣[となり]の部屋[へや]に住む[すむ]山田[やまだ]さんが出[で]てきました。山田[やまだ]さんは七十[ななじゅう]歳[さい]ぐらいの、背[せ]が低い[ひくい]男性[だんせい]です。毎朝[まいあさ]、散歩[さんぽ]をしています。山田[やまだ]さんはけいこの自転車[じてんしゃ]の前[まえ]で止まり[とまり]ました。そして、ゆっくりと、大切[たいせつ]そうに自転車[じてんしゃ]をまっすぐに直し[なおし]ました。それから、何[なん]も言わ[いわ]ずに歩い[あるい]て行き[いき]ました。

けいこは驚き[おどろき]ました。そして、胸[むね]が少し[すこし]温かく[あたたかく]なりました。

その日[ひ]の夕方[ゆうがた]、けいこは山田[やまだ]さんに会い[あい]ました。「山田[やまだ]さん、毎朝[まいあさ]、私[わたくし]の自転車[じてんしゃ]を直し[なおし]てくれていますか?」

山田[やまだ]さんは少し[すこし]驚い[おどろい]た顔[かお]をしました。それから、静か[しずか]に笑い[わらい]ました。「ああ、気づき[きづき]ましたか。私[わたくし]の娘[むすめ]も、昔[むかし]、こんな自転車[じてんしゃ]に乗っ[のっ]ていました。赤い[あかい]自転[じてん]車[しゃ]でした。今[いま]は遠い[とおい]町[まち]に住ん[すん]でいます。もうあまり会え[あえ]ませんが…。あなたの自転車[じてんしゃ]を見る[みる]と、娘[むすめ]を思い出し[おもいだし]ます。だから、きれいにしたくなるんです。」

けいこは何[なん]も言え[いえ]ませんでした。でも、ゆっくりとうなずきました。次[つぎ]の朝[あさ]から、けいこは自転車[じてんしゃ]の横[よこ]に小さな[ちいさな]メモを置き[おき]ました。「山田[やまだ]さん、ありがとうございます。」