Klokken der ringede aftenen før Zashiki-warashi forlod
B1 · Myths & Legends
晴香[はるか]が祖母[そぼ]の旅館[りょかん]に戻っ[もどっ]たのは、晩秋[ばんしゅう]のことだった。
岩手県[いわてけん]の山[やま]の中[なか]にある「松乃[まつの]屋[や]」は、祖母[そぼ]が五十[ごじゅう]年[ねん]以上[いじょう]守っ[まもっ]てきた小さな[ちいさな]宿[やど]だ。しかし、祖母[そぼ]が亡くなっ[なくなっ]てから半年[はんとし]が経ち[たち]、客[きゃく]の数[かず]はどんどん減っ[へっ]ていた。晴香[はるか]は東京[とうきょう]で働い[はたらい]ていたが、旅館[りょかん]を閉める[しめる]かどうか決める[きめる]ために、久しぶり[ひさしぶり]に戻っ[もどっ]てきたのだ。
「売っ[うっ]てしまったほうがいいかもしれない」と、晴香[はるか]はひとりで思っ[おもっ]ていた。
旅館[りょかん]に着い[つい]た日[ひ]の夜[よる]、番頭[ばんとう]の老人[ろうじん]・高橋[たかはし]さんが夕食[ゆうしょく]の準備[じゅんび]をしながら言っ[いっ]た。「晴香[はるか]さん、ここには座敷[ざしき]わらしがいますよ。お祖母[そぼ]さんもよくそう言っ[いっ]ていました」
晴香[はるか]は少し[すこし]笑っ[わらっ]た。「座敷[ざしき]わらし?子ども[こども]の精霊[せいれい]ですよね。本当[ほんとう]にいると思っ[おもっ]ているんですか?」
高橋[たかはし]さんは真剣[しんけん]な顔[かお]で答え[こたえ]た。「笑わ[わらわ]ないでください。座敷[ざしき]わらしがいる家[いえ]は、栄える[さかえる]と言わ[いわ]れています。でも、その家[いえ]の人[ひと]が座敷[ざしき]わらしを大切[たいせつ]にしなくなると、精霊[せいれい]はどこかへ行っ[いっ]てしまうんです。行っ[いっ]てしまったら、家[いえ]には不運[ふうん]が続く[つづく]と言わ[いわ]れています」
「それがうちの旅館[りょかん]に関係[かんけい]あるんですか?」と晴香[はるか]は聞い[きい]た。
「お祖母[そぼ]さんが元気[げんき]だった頃[ころ]、この旅館[りょかん]はとても賑わっ[にぎわっ]ていました。でも今[いま]は…」高橋[たかはし]さんは言葉[ことば]を止め[とめ]た。
その夜[よる]、高橋[たかはし]さんは旅館[りょかん]の一番[いちばん]奥[おく]にある「椿[つばき]の間[あいだ]」という部屋[へや]に晴香[はるか]を案内[あんない]した。その部屋[へや]は長い[ながい]間[あいだ]、誰[だれ]にも使わ[つかわ]れていなかった。「座敷[ざしき]わらしはここにいるんです」と高橋[たかはし]さんは静か[しずか]に言っ[いっ]た。
晴香[はるか]はその部屋[へや]を一目[ひとめ]見[み]て、心[こころ]が少し[すこし]痛ん[いたん]だ。部屋[へや]の隅[すみ]に小さな[ちいさな]棚[たな]があり、花[はな]も線香[せんこう]もなく、ただほこりをかぶっていた。
その夜[よる]、深夜[しんや]一[いち]時[じ]頃[ころ]、晴香[はるか]は目[め]が覚め[さめ]た。かすかな音[おと]が廊下[ろうか]のほうから聞こえ[きこえ]てきた。リン、と。鈴[すず]の音[おと]だった。
その時[とき]、祖母[そぼ]の声[こえ]が頭[あたま]の中[なか]によみがえった。「晴香[はるか]、もしここで鈴[すず]の音[おと]を聞い[きい]たら、椿[つばき]の間[あいだ]に行き[いき]なさい。そして『ありがとう』と言う[いう]んですよ。座敷[ざしき]わらしが去る[さる]前[まえ]に鈴[すず]を鳴らす[ならす]のは、もう一度[いちど]、大切[たいせつ]にしてほしいとお願い[ねがい]しているのよ」
晴香[はるか]は椿[つばき]の間[あいだ]のふすまの前[まえ]に立っ[たっ]た。部屋[へや]に入り[はいり]、棚[たな]の前[まえ]にひざまずいて言っ[いっ]た。「ありがとう。私[わたくし]は…ここを大切[たいせつ]にしていなかった。ごめんなさい。もし、もう少し[すこし]だけいてくれるなら、今度[こんど]はちゃんと向き合い[むきあい]ます」
翌朝[よくあさ]、晴香[はるか]は高橋[たかはし]さんに伝え[つたえ]た。「この旅館[りょかん]、もう少し[すこし]続け[つづけ]てみます」
その日[ひ]、晴香[はるか]は白い[しろい]小菊[こぎく]を飾り[かざり]、部屋[へや]をきれいに掃除[そうじ]した。その年[とし]の冬[ふゆ]、久しぶり[ひさしぶり]に予約[よやく]が入り[はいり]始め[はじめ]た。旅館[りょかん]の中[なか]が少し[すこし]だけ明るく[あかるく]感じ[かんじ]られた。