隼[はやぶさ]はホテルのベッドに座っ[すわっ]ていた。刈り上げ[かりあげ]た頭[あたま]に部屋[へや]の白い[しろい]光[ひかり]が当たり[あたり]、日焼け[ひやけ]した頬[ほお]が暗い[くらい]中[なか]で少し[すこし]赤く[あかく]見え[みえ]た。右手首[みぎてくび]の白い[しろい]テープを指[ゆび]でなぞった。体[からだ]は疲れ[つかれ]ているのに、眠れ[ねむれ]なかった。そのとき、スマホが鳴っ[なっ]た。
水島[みずしま]と木村[きむら]、読ん[よん]でほしい
丸山[まるやま]コーチが健太[けんた]をベンチにしている理由[りゆう]、知っ[しっ]てるか?
だれ?
このアカウント、知ら[しら]ない
なんで俺[おれ]の連絡先[れんらくさき]を知っ[しっ]てるの
理由[りゆう]は実力[じつりょく]じゃない
え、なに?このグループだれが作っ[つくっ]た?
隼[はやぶさ]?
俺[おれ]じゃない 急[きゅう]に通知[つうち]が来[き]た
やばくない?😳
コーチと健太[けんた]の父親[ちちおや]は、10年[ねん]前[まえ]に大げんか[おおげんか]したんだ。コーチはまだ根[ね]に持っ[もっ]てる。だから健太[けんた]を使わ[つかわ]ない。
は??
…
それ、本当[ほんとう]か?
健太[けんた]の球[たま]、155キロ出る[でる]んだぞ。コーチは知っ[しっ]てる。でも使わ[つかわ]ない。
うそだろ
155キロ?
…
健太[けんた]、練習[れんしゅう]でいつも一番[いちばん]最後[さいご]までいた。毎日[まいにち]。俺[おれ]、見[み]てた
知っ[しっ]てる
でも隼[はやぶさ]、このメッセージ信用[しんよう]できないよ。誰[だれ]かが俺[おれ]たちをだまそうとしてる。明日[あす]、甲子園[こうしえん]だから
信じ[しんじ]なくていい。ただ、健太[けんた]のことを一度[いちど]ちゃんと見[み]てほしかった。
あんた誰[だれ]?
健太[けんた]か?
[既読[きどく]]
ねえ
[既読[きどく]]
答え[こたえ]ないじゃん
やっぱり嘘[うそ]だよ
…
待っ[まっ]て
no14truthの「14」ってさ…
え?
健太[けんた]の背番号[せばんごう]、14じゃないか
あ
…
でもそれだけじゃわからない
そうだけど
俺[おれ]さ…ずっと気[き]になってたんだ。健太[けんた]のこと。あいつ、キャッチボールのとき球[たま]がめちゃくちゃ速く[はやく]て。俺[おれ]より速い[はやい]かもって、正直[しょうじき]思っ[おもっ]てた。だから…なんでコーチが使わ[つかわ]ないのか、ずっと不思議[ふしぎ]だったんだよな…
…俺[おれ]も速い[はやい]とは思っ[おもっ]てた
でも隼[はやぶさ]、今夜[こんや]どうする?コーチに話す[はなす]?
迷っ[まよっ]てる
だめだって!!
明日[あす]は甲子園[こうしえん]だぞ😭
わかってる
でも、もし本当[ほんとう]のことだったら
本当[ほんとう]だとしても、今夜[こんや]コーチを起こし[おこし]たらチームが終わる[おわる]
…そうだな
ねえ、もう一回[いちかい]聞く[きく]ぞ
健太[けんた]が送っ[おくっ]たのか?答え[こたえ]てくれ
[既読[きどく]]
はあ
答え[こたえ]ない
健太[けんた]かどうか、わからない
でも…なんで今夜[こんや]なんだろう
それが一番[いちばん]やばい
試合[しあい]の前[まえ]の夜[よる]に送っ[おくっ]てくるって、どういう気持ち[きもち]だよ
…
もしかして、健太[けんた]はコーチに怒っ[おこっ]てる
でも試合[しあい]は壊し[こわし]たくなかったのかな
どういう意味[いみ]?
ただ、誰[だれ]かに知っ[しっ]てほしかっただけかもしれない
…
それはわかる気[き]がする
隼[しゅん]、もう寝ろ[ねろ]。明日[あす]6時[じ]起き[おき]だよ
うん
でも眠れ[ねむれ]ない
俺[おれ]も眠れ[ねむれ]ないよ😭
でも、今夜[こんや]は答え[こたえ]が出[で]ない
試合[しあい]が終わっ[おわっ]たら、健太[けんた]と話す[はなす]
それがいいと思う[おもう]
コーチには言わ[いわ]ない。今[いま]は
正解[せいかい]
今[いま]は投げる[なげる]ことだけ考えろ[かんがえろ]
ああ
ボロボロになった野球帽[やきゅうぼう]が、ベッドの白い[しろい]シーツの上[うえ]に一[ひと]つ置い[おい]てある
なんで今[いま]それ送っ[おくっ]てくるの笑[わらい]
ずっとこの帽子[ぼうし]で投げ[なげ]てきた
明日[あす]も同じ[おなじ]帽子[ぼうし]で投げる[なげる]
当たり前[あたりまえ]だろ🔥
おやすみ、隼[しゅん]
おやすみ
…龍也[たつや]
なに
ありがとう
うるさい、寝ろ[ねろ]笑[わらい]
隼[はやぶさ]は画面[がめん]を閉じ[とじ]た。部屋[へや]は静か[しずか]だった。でも、no14truthのメッセージはまだそこに残っ[のこっ]ていた。「健太[けんた]のことを、一度[いちど]ちゃんと見[み]てほしかった。」その一言[ひとこと]だけが、頭[あたま]の中[なか]で消え[きえ]なかった。
ロッカールームで、隼[はやぶさ]は右手首[みぎてくび]にテープを貼り[はり]直し[なおし]た。そのとき、健太[けんた]が入っ[はいっ]てきた。目[め]が合っ[あっ]た。健太[けんた]は少し[すこし]だけ笑っ[わらっ]た。それだけだった。
龍也[たつや]
健太[けんた]が笑っ[わらっ]た
え?今[いま]?
うん。目[め]が合っ[あっ]たとき
それだけ?
それだけ
…なんか切ない[せつない]な
うん
試合[しあい]、終わっ[おわっ]たら絶対[ぜったい]話す[はなす]
ああ
でも今[いま]は
わかってる
行く[いく]ぞ
隼[はやぶさ]は帽子[ぼうし]をかぶって、ロッカールームを出[で]た。外[そと]は明るかっ[あかるかっ]た。甲子園[こうしえん]の空[そら]は青かっ[あおかっ]た。