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Bí mật đằng sau hương vị của ông trước đêm đóng cửa quán

春子[はるこ]は古い[ふるい]段ボール[だんぼーる]箱[ばこ]を開け[あけ]ながら、大きな[おおきな]ため息[ためいき]をついた。明日[あす]の午後[ごご]五[ご]時[じ]に、「らーめん はる」は永遠[えいえん]に閉まる[しまる]。五十三[ごじゅうさん]年間[ねんかん]、この小さな[ちいさな]店[みせ]は駅前[えきまえ]に立っ[たっ]ていた。しかし、春子[はるこ]の父[ちち]・健二[けんじ]は先月[せんげつ]、「もう限界[げんかい]だ」と言っ[いっ]て、店[みせ]を閉める[しめる]ことを決め[きめ]た。

客[きゃく]が少なく[すくなく]なったのは、確か[たしか]だった。祖父[そふ]の俊一[しゅんいち]が三[さん]年[ねん]前[まえ]に亡くなっ[なくなっ]てから、何[なん]かが変わっ[かわっ]た。スープの味[あじ]は同じ[おなじ]はずなのに、なぜか違う[ちがう]気[き]がした。

「あと少し[すこし]だけ」と春子[はるこ]は自分[じぶん]に言い聞かせ[いいきかせ]ながら、厨房[ちゅうぼう]の棚[たな]を拭い[ふい]ていた。

夜[よる]の十[じゅう]時[じ]頃[ころ]、春子[はるこ]は棚[たな]の一番[いちばん]奥[おく]に古い[ふるい]ノートを見つけ[みつけ]た。表紙[ひょうし]には、祖父[そふ]の字[じ]で「大切[たいせつ]なもの」と書い[かい]てあった。

最初[さいしょ]は日記[にっき]だと思っ[おもっ]たが、開い[ひらい]てみると、そうではなかった。

ページの真ん中[まんなか]に、こう書い[かい]てあった。「スープの最後[さいご]の一歩[いっぽ]:火[ひ]を止める[とめる]三[さん]分[ふん]前[まえ]に、昆布[こんぶ]を一[いち]枚[まい]だけ入れる[いれる]こと。絶対[ぜったい]に煮[に]すぎないこと。そして、出す[だす]前[まえ]に取り出す[とりだす]こと。誰[だれ]にも教え[おしえ]なかった。でも、君[きみ]には伝え[つたえ]たい」

「君[きみ]には」?誰[だれ]のことだろうか。春子[はるこ]はページをめくった。次[つぎ]のページに、こう書い[かい]てあった。「春子[はるこ]へ。おまえはいつも厨房[ちゅうぼう]で一番[いちばん]真剣[しんけん]だった。だから、これを残す[のこす]」

春子[はるこ]の手[て]が止まっ[とまっ]た。目[め]に涙[なみだ]がたまってきた。祖父[そふ]が自分[じぶん]のために書い[かい]てくれていた。なのに、自分[じぶん]は三[さん]年間[ねんかん]もこのノートを知ら[しら]なかった。

「一度[いちど]だけ作っ[つくっ]てみよう」と春子[はるこ]は思っ[おもっ]た。

彼女[かのじょ]は厨房[ちゅうぼう]に戻り[もどり]、残っ[のこっ]ていた食材[しょくざい]でスープを作り[つくり]始め[はじめ]た。豚骨[とんこつ]を煮[に]て、醤油[しょうゆ]を加え[くわえ]て、ずっと火[ひ]の前[まえ]に立っ[たっ]ていた。火[ひ]を止める[とめる]三[さん]分[ふん]前[まえ]になると、冷蔵庫[れいぞうこ]から昆布[こんぶ]を一[いち]枚[まい]取り出し[とりだし]てスープに入れ[いれ]た。三[さん]分[ふん]後[ご]、昆布[こんぶ]をそっと取り出し[とりだし]た。

スープの色[いろ]は同じ[おなじ]だった。しかし、香り[かおり]が少し[すこし]違っ[ちがっ]た。深く[ふかく]て、丸い[まるい]香り[かおり]だった。春子[はるこ]がスープを一口[ひとくち]飲ん[のん]だとき、記憶[きおく]の中[なか]の祖父[そふ]の店[みせ]の味[あじ]が戻っ[もどっ]てきた。子ども[こども]の頃[ころ]、学校[がっこう]から帰る[かえる]といつもこの匂い[におい]がした。あのときは何[なん]が特別[とくべつ]なのか分から[わから]なかったが、今[いま]は分かっ[わかっ]た。

「何[なん]をしているんだ、こんな時間[じかん]に」。ドアを開け[あけ]て、父[ちち]の健二[けんじ]が入っ[はいっ]てきた。今日[きょう]、店[みせ]の鍵[かぎ]を返し[かえし]に来る[くる]つもりだったらしい。

「食べ[たべ]てみて」と春子[はるこ]は言っ[いっ]た。健二[けんじ]は少し[すこし]驚い[おどろい]た顔[かお]をしたが、椅子[いす]に座っ[すわっ]た。春子[はるこ]はスープと麺[めん]を一緒[いっしょ]に出し[だし]た。健二[けんじ]は一口[ひとくち]食べ[たべ]て、箸[はし]を置い[おい]た。「これは……」と彼[かれ]は小さな[ちいさな]声[こえ]で言っ[いっ]た。「親父[おやじ]の味[あじ]だ」。二人[ふたり]はしばらく黙っ[だまっ]ていた。

「どうやって?」と健二[けんじ]が聞い[きい]た。春子[はるこ]はノートを父[ちち]に見せ[みせ]た。健二[けんじ]はゆっくりと読ん[よん]で、目[め]を閉じ[とじ]た。「お父さん[おとうさん]が残し[のこし]たのは、レシピだけじゃないと思う[おもう]」と春子[はるこ]は言っ[いっ]た。「続け[つづけ]てほしかったんだと思う[おもう]。私[わたくし]に」

健二[けんじ]はため息[ためいき]をついた。「難しい[むずかしい]な。お金[おかね]の問題[もんだい]もある。客[きゃく]の問題[もんだい]もある」。「分かっ[わかっ]てる」と春子[はるこ]は答え[こたえ]た。「でも、一緒[いっしょ]に考え[かんがえ]てみたい。明日[あす]、閉める[しめる]前[まえ]に」

健二[けんじ]は長い[ながい]間[あいだ]、スープを見[み]ていた。それから、もう一口[ひとくち]飲ん[のん]だ。「……まあ、急が[いそが]なくてもいいか」と彼[かれ]は静か[しずか]に言っ[いっ]た。春子[はるこ]は何[なん]も言わ[いわ]なかった。ただ、微笑ん[ほほえん]だ。

その夜[よる]、二人[ふたり]は午前[ごぜん]二[に]時[じ]まで話し合っ[はなしあっ]た。すべては決まら[きまら]なかった。しかし、何[なん]かが少し[すこし]だけ変わっ[かわっ]た気[き]がした。棚[たな]の奥[おく]に眠っ[ねむっ]ていたノートのように、大切[たいせつ]なものはまだそこにある。ただ、見つけよう[みつけよう]としないといけない。