父亲每周光顾的咖啡馆并不存在

在整理年迈父亲的家时,一位半退休的工程师发现了他五百多张手写的收据,这些收据来自一家地图上从未出现过的咖啡馆——而与他妹妹和童年邻居的群聊,则慢慢揭开了父亲十年来从未提起过的、安静的周日忠诚。

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奈緒[なお]、誠[まこと]、今日[きょう]から実家[じっか]の片付け[かたづけ]を始め[はじめ]た。父さん[とうさん]の机[つくえ]の引き出し[ひきだし]を開け[あけ]たら、変[へん]なものが出[で]てきた

おつかれ!何[なん]が出[で]てきたの?

手書き[てがき]の領収書[りょうしゅうしょ]がたくさん。束[たば]になってゴムで留め[とめ]てある。全部[ぜんぶ]「喫茶[きっさ]マリア」って店名[てんめい]が書い[かい]てあって、毎週[まいしゅう]日曜日[にちようび]の日付[ひづけ]で、十[じゅう]年[ねん]以上[いじょう]続い[つづい]てる

喫茶[きっさ]マリア??

金額[きんがく]はコーヒー一[いち]杯[ばい]分[ぶん]くらい。字[じ]は女[おんな]の人[ひと]の筆跡[ひっせき]に見える[みえる]

それ父さん[とうさん]が毎週[まいしゅう]日曜[にちよう]に行っ[いっ]てたって言っ[いっ]てた喫茶店[きっさてん]じゃない?

そうだと思う[おもう]。でもおかしいんだ。住所[じゅうしょ]が書い[かい]てあるから調べ[しらべ]たんだが、その場所[ばしょ]に何[なん]もない

どういうこと?

GoogleマップでもSNSでも、「喫茶[きっさ]マリア」という店[みせ]が松本[まつもと]に存在[そんざい]した記録[きろく]がどこにもない。住所[じゅうしょ]に行っ[いっ]てみたら、ただのマンションだった

えっ…それ変[へん]すぎる😟

木製[もくせい]の古い[ふるい]机[つくえ]の上[うえ]に置か[おか]れた、ふたが少し[すこし]浮い[うい]たくたびれた缶[かん]の箱[ばこ]

領収書[りょうしゅうしょ]はこの缶[かん]の中[なか]に入っ[はいっ]てた。大事[だいじ]にしまってあったみたいだ

お父さん[おとうさん]、なんで喫茶店[きっさてん]の領収書[りょうしゅうしょ]を全部[ぜんぶ]残し[のこし]てたの…?普通[ふつう]捨てる[すてる]よね

それが気[き]になってる

ごめん、店[みせ]が忙しく[いそがしく]て。さっき通知[つうち]見[み]た。何[なん]かあった?

誠[まこと]、ちょうどよかった。昔[むかし]、松本[まつもと]の中央[ちゅうおう]2丁目[ちょうめ]のあたりに喫茶店[きっさてん]ってあったか覚え[おぼえ]てるか?

中央[ちゅうおう]2丁目[ちょうめ]か…

どのへん?

今[いま]は6階[かい]建て[だて]のマンションが建っ[たっ]てる場所[ばしょ]。昔[むかし]は古い[ふるい]アパートだったみたいだが

ああ、あそこな。確か[たしか]に古い[ふるい]アパートだったよ

そこに喫茶店[きっさてん]はあったか?

喫茶店[きっさてん]はなかったと思う[おもう]けどな…商店街[しょうてんがい]からちょっと外れ[はずれ]てるし

じゃあ父さん[とうさん]はどこに行っ[いっ]てたの?

正直[しょうじき]、わからない。領収書[りょうしゅうしょ]には「喫茶[きっさ]マリア」って書い[かい]てあるし、住所[じゅうしょ]もはっきり書い[かい]てある。でも店[みせ]の記録[きろく]がゼロだ

父さん[とうさん]に直接[ちょくせつ]聞い[きい]たら?

施設[しせつ]に電話[でんわ]したんだけど、今日[きょう]は調子[ちょうし]があまりよくないって言わ[いわ]れた。面会[めんかい]は来週[らいしゅう]になりそう

そっか…

一番[いちばん]古い[ふるい]領収書[りょうしゅうしょ]が15年[ねん]前[まえ]だ。一番[いちばん]新しい[あたらしい]のが3年[ねん]前[まえ]

3年[ねん]前[まえ]ってコロナの頃[ころ]じゃない?もしかしてその頃[ころ]に閉まっ[しまっ]たのかな

閉まっ[しまっ]たとしても、存在[そんざい]した記録[きろく]がないのはおかしい。飲食店[いんしょくてん]なら保健所[ほけんじょ]への届け出[とどけで]が必要[ひつよう]なはずだけど

…ちょっと待っ[まっ]て

どうした?

今[いま]、昔[むかし]のこと思い出し[おもいだし]てた

何[なん]を??

あのアパートに、吉田[よしだ]さんっていうおばあさんが住ん[すん]でたんだよ。俺[おれ]が子供[こども]の頃[ころ]からずっと一人暮らし[ひとりぐらし]で。コーヒーをよく淹れ[いれ]てくれる人[ひと]で

吉田[よしだ]さん…

喫茶店[きっさてん]じゃないけど、近所[きんじょ]の人[ひと]が行く[いく]と部屋[へや]でコーヒー出し[だし]てたよ。なんか「うちはカフェだから」みたいなこと言っ[いっ]て笑っ[わらっ]てた記憶[きおく]がある

えっ、それって…!

それが「喫茶[きっさ]マリア」なのかもしれない

マリアって名前[なまえ]は知ら[しら]なかったけど。吉田[よしだ]キミエさん、洗礼名[せんれいめい]みたいなものがあるって聞い[きい]たことがある気[き]がする

キリスト教[きりすときょう]の人[ひと]だったの?

どうだろ、詳しく[くわしく]はわからない。でも部屋[へや]に十字架[じゅうじか]が飾っ[かざっ]てあったのは覚え[おぼえ]てる

😮

父さん[とうさん]と吉田[よしだ]さんの関係[かんけい]は知っ[しっ]てるか?

んー、直接[ちょくせつ]は知ら[しら]ないけど…

あのさ、これ俺[おれ]の親[おや]から聞い[きい]た話[はなし]なんだけど。吉田[よしだ]さんのご主人[しゅじん]てさ、昔[むかし]、浩志[ひろし]のお父さん[おとうさん]の同僚[どうりょう]だったんだよね。で、その人[ひと]が早く[はやく]に亡くなっ[なくなっ]て、奥さん[おくさん]が一人[ひとり]になったって。浩志[ひろし]のお父さん[おとうさん]がずっと気[き]にしてたって話[はなし]、昔[むかし]うちの親[おや]が言っ[いっ]てたような…うろ覚え[うろおぼえ]だけど

それだ…!

…そうか

お父さん[おとうさん]、ずっとその人[ひと]に会い[あい]に行っ[いっ]てたんだ。毎週[まいしゅう]日曜日[にちようび]に

しかも黙っ[だまっ]て。俺[おれ]たちに一度[いちど]も話さ[はなさ]ずに

「喫茶店[きっさてん]に行っ[いっ]てくる」って言い方[いいかた]してたの、覚え[おぼえ]てる。ずっと本当[ほんとう]のことだと思っ[おもっ]てた

本当[ほんとう]のことだよ。ただ、吉田[よしだ]さんの部屋[へや]が彼女[かのじょ]の喫茶店[きっさてん]だっただけで

😢

吉田[よしだ]さん、3年[ねん]くらい前[まえ]に亡くなっ[なくなっ]たんだよね。俺[おれ]の親[おや]も葬儀[そうぎ]に出[で]たって言っ[いっ]てた

だから領収書[りょうしゅうしょ]が3年[ねん]前[まえ]で止まっ[とまっ]てるのか

父さん[とうさん]、一人[ひとり]で悲しん[かなしん]でたんだね。私たち[わたしたち]に何[なん]も言わ[いわ]ないで

領収書[りょうしゅうしょ]を全部[ぜんぶ]数え[かぞえ]てみた。527枚[まい]あった

527枚[まい]…

十[じゅう]年[ねん]以上[いじょう]、毎週[まいしゅう]か

コーヒー一[いち]杯[ばい]ぶんの値段[ねだん]。でも吉田[よしだ]さんは手書き[てがき]で領収書[りょうしゅうしょ]を作っ[つくっ]てたんだな。本物[ほんもの]の喫茶店[きっさてん]みたいに

なんで領収書[りょうしゅうしょ]まで作っ[つくっ]たんだろ

推測[すいそく]だけど…父さん[とうさん]が気[き]を使わ[つかわ]せないために、ちゃんと払おう[はらおう]としたんじゃないかな。吉田[よしだ]さんも気[き]を遣っ[つかっ]て、「お代[だい]をいただいてます」という形[かたち]にしたかったのかも

プライドがある人[ひと]だったんだね

そういう世代[せだい]の人[ひと]だったと思う[おもう]。お互い[たがい]に気[き]を遣い[つかい]合っ[あっ]て、でもちゃんと続け[つづけ]てたんだよ

来週[らいしゅう]、父さん[とうさん]に会い[あい]に行く[いく]。この缶[かん]を持っ[もっ]て

私[わたくし]も行き[いき]たい。有休[ゆうきゅう]取れる[とれる]か確認[かくにん]してみる

来[き]てくれると助かる[たすかる]

…お父さん[おとうさん]のこと、あんまりわかってなかったな私[わたくし]

俺[おれ]もだよ

浩志[ひろし]のお父さん[おとうさん]、昔[むかし]から口数[くちかず]が少ない[すくない]人[ひと]だったもんな。でも動く[うごく]人[ひと]だったよ、いつも

そうだな

…誠[まこと]、ありがとう。思い出し[おもいだし]てくれて

いや、大した[たいした]ことしてないよ。でもよかった、少し[すこし]わかって

ほんとにありがとう😭

奈緒[なお]、来週[らいしゅう]の施設[しせつ]、木曜日[もくようび]どうだ?

木曜[もくよう]ならいける!

じゃあそれで。父さん[とうさん]に聞い[きい]てみよう。責める[せめる]つもりじゃなくて、ただ…話[はなし]を聞き[きき]たい

うん。私[わたくし]も聞き[きき]たい

527回[かい]、毎週[まいしゅう]コーヒーを飲み[のみ]に行っ[いっ]てたんだよね。その話[はなし]、全部[ぜんぶ]聞い[きい]てみたい

俺[おれ]も同じ[おなじ]気持ち[きもち]だ

いい話[はなし]になるといいな

なると思う[おもう]