Loading translation and audio tools…

De laatste bal van Koshien

Tik op een woord voor een directe vertaling. Gebruik de afspeelknoppen om het verhaal te horen terwijl je leest.

Illustratie voor alinea 1

マウンドの上[うえ]に立っ[たっ]た瞬間[しゅんかん]、田村[たむら]健二[けんじ]は気づい[きづい]た。スタジアムが静か[しずか]すぎる、と。

九[きゅう]回[かい]の裏[うら]、ツーアウト、満塁[まんるい]。西川[にしかわ]高校[こうこう]は一点[いってん]リードしている。しかし、相手[あいて]の東海[とうかい]高校[こうこう]のクリーンアップバッターが打席[だせき]に入っ[はいっ]てきた。健二[けんじ]の足[あし]が少し[すこし]震え[ふるえ]た。

Illustratie voor alinea 3

三[さん]年[ねん]前[まえ]のことを思い出し[おもいだし]た。

あの夏[なつ]、健二[けんじ]はテレビの前[まえ]に座っ[すわっ]て、兄[あに]の勇太[ゆうた]が甲子園[こうしえん]の決勝[けっしょう]で投げる[なげる]のを見[み]ていた。勇太[ゆうた]は当時[とうじ]エースで、チームのヒーローだった。しかし最終回[さいしゅうかい]、勇太[ゆうた]は一[いち]球[きゅう]を投げ[なげ]、それがホームランになってしまった。チームは負け[まけ]た。

健二[けんじ]は当時[とうじ]、何[なん]も言え[いえ]なかった。負け[まけ]た兄[あに]に何[なん]と言え[いえ]ばいいか、わからなかったのだ。「なんで打た[うた]れたんだ」とさえ思っ[おもっ]ていた。中学生[ちゅうがくせい]だった自分[じぶん]には、あの一[いち]球[きゅう]がどれだけ重い[おもい]ものだったか、まったく理解[りかい]できていなかった。

Illustratie voor alinea 6

それから三[さん]年[ねん]。今日[きょう]、健二[けんじ]は同じ[おなじ]場所[ばしょ]に立っ[たっ]ている。

Illustratie voor alinea 7

昨夜[さくや]、兄[あに]から電話[でんわ]があった。

「健二[けんじ]、甲子園[こうしえん]のマウンドはすごく広く[ひろく]感じる[かんじる]ぞ。でもな、一番[いちばん]大切[たいせつ]なことを忘れる[わすれる]な。どんな結果[けっか]でも、お前[おまえ]は一人[ひとり]じゃない。後ろ[うしろ]には仲間[なかま]がいる。」

健二[けんじ]はそのとき、「うん、わかった」とだけ答え[こたえ]た。でも本当[ほんとう]はよく意味[いみ]がわからなかった。

Illustratie voor alinea 10

今[いま]、その言葉[ことば]の意味[いみ]がやっとわかった気[き]がした。

キャッチャーの村田[むらた]がサインを出し[だし]た。外角[がいかく]へのストレート。健二[けんじ]は首[くび]を振っ[ふっ]た。村田[むらた]が別[べつ]のサインを出し[だし]た。チェンジアップ。健二[けんじ]は少し[すこし]考え[かんがえ]てから、うなずいた。

深呼吸[しんこきゅう]をした。グラブの中[なか]でボールをゆっくりと握っ[にぎっ]た。内野[ないや]手[て]たちが構え[かまえ]ているのが見え[みえ]た。外野[がいや]手[て]たちも動か[うごか]なかった。みんなが、この一[いち]球[きゅう]を待っ[まっ]ていた。

Illustratie voor alinea 13

健二[けんじ]は足[あし]を上げ[あげ]た。そして、全力[ぜんりょく]で腕[うで]を振っ[ふっ]た。

ボールは低く[ひくく]、外[そと]に逃げる[にげる]ように曲がっ[まがっ]た。バッターのバットが空[そら]を切っ[きっ]た。

Illustratie voor alinea 15

「ストライク!バッターアウト!」

スタジアムが爆発[ばくはつ]したように声[こえ]が上がっ[あがっ]た。西川[にしかわ]高校[こうこう]のナインがマウンドに向かっ[むかっ]て走っ[はしっ]てきた。村田[むらた]が健二[けんじ]に飛びつい[とびつい]た。「やったぞ、健二[けんじ]!」涙[なみだ]が出[で]てきた。

Illustratie voor alinea 17

しばらくして、整列[せいれつ]が終わり[おわり]、みんなで引き上げる[ひきあげる]とき、健二[けんじ]はもう一度[いちど]甲子園[こうしえん]のマウンドを見[み]た。あの白い[しろい]プレートが、三[さん]年[ねん]前[まえ]と同じ[おなじ]ように光っ[ひかっ]ていた。

兄[あに]はここで負け[まけ]た。しかし今日[きょう]まで、ずっと野球[やきゅう]を続け[つづけ]た。今[いま]は地元[じもと]の社会人[しゃかいじん]チームで投げ[なげ]ている。健二[けんじ]はそのことを、これまでたいして気[き]にしていなかった。

でも、初めて[はじめて]わかった。

兄[あに]はあの一[いち]球[きゅう]を、ずっと背負っ[せおっ]てきたのだ。そして、それでも投げ[なげ]続け[つづけ]た。

Illustratie voor alinea 21

ロッカールームに入る[はいる]前[まえ]に、健二[けんじ]はスマートフォンを取り出し[とりだし]て、兄[あに]にメッセージを送っ[おくっ]た。

「兄貴[あにき]、俺[おれ]、ちゃんと投げ[なげ]られたよ。……あの日[ひ]のこと、今日[きょう]まで何[なん]も言え[いえ]なくてごめん。ありがとう。」

Illustratie voor alinea 23

返信[へんしん]はすぐに来[き]た。

「知っ[しっ]てた。よくやった。」

健二[けんじ]は笑っ[わらっ]た。涙[なみだ]が一[いち]粒[つぶ]、頬[ほお]を伝っ[つたっ]た。